■ はじめに
青汁とは、緑葉野菜を絞ってつくられる健康食品の俗称で、原材料として、ケール、アシタバ、大麦若葉、モロヘイヤ、クロレラなどが良く用いられています。「野菜不足の食生活の改善に」、「ダイエットに効果的」、「むくみ解消」などと宣伝され、数多くの青汁製品が販売されています。ここでは、青汁製品の効果と安全性、利用する際の注意点を解説します。
■ 青汁で野菜不足は解消できる?
青汁が「体に良い」理由は、野菜の栄養素を手軽に摂れるから、とされているようです (1) 。忙しい日々の中で食生活の乱れが気になっているとき、「コップ1杯の青汁で野菜不足が解消できる」という宣伝は魅力的に感じるかもしれません。青汁は野菜を加工したものですので、製品ごとに成分は異なりますが、原料の野菜に含まれるビタミンやミネラルを摂取できます。しかし、野菜を食べた時と全く同じ成分を摂ることができるとは限りません。加工の過程で失われる成分や添加される成分があるからです。
また、野菜を食べることには栄養素を摂る以外にも、良く噛んで味わうことによって満足感を得る、咀嚼機能を発達させる、料理に彩りや味わいを加えるなどの利点があります。そのため、十分な量の野菜を食べることは健康的な食生活を身につけるために不可欠とされるのです。野菜不足を感じている場合、偏ってしまった食事バランスをそのままにして健康食品で簡単に栄養素を補給しても、健康維持のための根本的な解決にはなりません。ビタミンやミネラルは重要な栄養素ですが、多く摂れば摂るほど健康になるというものではありませんので、本当に不足しているのかを見極めることも必要です。野菜不足の不安を感じたら、栄養士に相談するなどして自分自身の食事内容を見直し、問題点を理解したうえで食生活全体を改善することが重要です。
■ 青汁ダイエットの効果は?
肥満が気になる方の中には、青汁にダイエット効果を期待している方もいらっしゃるかもしれません。青汁製品の口コミを見ると、「これを飲んで1ヶ月で○○kg減量!」など体験談が目につきます。しかし、体重の変化はエネルギー摂取量と消費量の収支の結果です。減量のためには、エネルギー消費量が摂取量を上回るように食事や運動に気を配る必要があります。つまり、過食や運動不足といった生活習慣を正すことなく、青汁を摂取するだけで減量効果が得られることはありません。「青汁を飲んで痩せた」という体験談が事実であったとしても、その裏には「食事の量をコントロールし、適度な運動をして、青汁も飲んでいたら痩せた」というように、重要な情報が隠れていることがあります。また、個人の体験談は科学的な根拠に基づいたものではなく、極端な例が強調されている可能性もあります。「飲むだけで簡単に、2週間でマイナス5キロ」など劇的な効果を謳う情報は、冷静に判断しましょう。
青汁の原料に含まれる成分によって、脂肪燃焼やむくみの改善効果が得られると宣伝されることもありますが、現時点で青汁やケール、アシタバ、大麦若葉などによって痩身やむくみ解消などの効果が得られるという十分な根拠は見当たりません。また、成分の有効性情報はそれを含む製品の有効性情報と同じではない点、これらの情報の多くは動物や細胞を用いた実験結果を基にしている点にも注意が必要です。
■ 青汁の安全性は?
青汁は、製品によって原材料やそれぞれの含有量が異なります。安全性は製品の成分や品質によって変わるため、青汁の安全性を一概に判断することはできません。しかし、原料を濃縮して製造された青汁製品は、野菜をそのまま食べるのに比べて特定の成分を多量に簡単に摂取できてしまうため、過剰摂取による体調不良を生じる可能性があります。「健康効果を得たいから」と習慣的にたくさんの量を摂取したり、複数の青汁製品やビタミン、ミネラル等のサプリメントを併用したりすることは避けましょう。
青汁が原因と考えられる健康被害として、大麦若葉やケールを原料とする青汁製品の摂取により、肝障害を生じた事例が複数報告されています (2) (3) (4) (5) 。この中には、青汁製品を単独で摂取した例と、ほかの製品と併用した例が含まれます。また、ほうれん草やパセリなど、シュウ酸を多く含む緑黄色野菜から作った自家製ジュースだけを食事の代わりに多量に摂取し、腎障害を発症した報告もあります (6) (7) 。高齢の方や腎臓の機能が弱っている方は、特に注意が必要です。また、「からだにいいから」と言って特定のものばかりを食べる極端な食生活は禁物です。なお、青汁にはセリ科、アブラナ科の野菜などアレルギーの原因となる原材料が使用されています。ほかの人が問題なく摂取している製品であっても、体質によっては体調不良を生じる場合があります。青汁製品を摂取して体調に異変を感じたら、すぐに摂取を中止し、不安な場合や体調が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。
医薬品を服用している場合には、青汁の摂取が薬の効果に影響をおよぼす可能性があります。青汁製品はビタミンKを含む野菜類を原料としているため、ビタミンKを豊富に含む製品が多くあります。多量のビタミンKの摂取は、血液を固まりにくくする医薬品であるワルファリンの効果を弱めてしまうことが知られています。ビタミンKの含有量は製品によって幅がありますが (8) 、ワルファリンを使用している場合は青汁の摂取を避けることが望ましいとされています (9) 。また、青汁製品には、野菜類以外にも様々な成分が添加されている場合があります。薬や病気の治療に影響をおよぼすものが含まれている可能性もありますので、医薬品を服用している場合には青汁製品の利用について医師や薬剤師などの専門職にご相談されることをおすすめします。
■トクホの青汁の効果や安全性は?
上述のとおり、青汁はそれぞれの製品で原料や含有成分などが異なるため、効果や安全性も製品によって異なります。特定保健用食品 (トクホ) としての表示が許可されている製品は、個別に効果と安全性についての検討が行われているため、適切に利用すれば表示されている効果を期待できます。ただし、製品によっては青汁とは関係のない成分を関与成分として添加することでその効果が得られているものもあり、青汁そのものの効果というわけではない場合もあります。また、トクホを利用していても、乱れた生活習慣を見直さなければ期待する効果を得ることはできません。まずは日常の食生活を見直したうえで、表示されている利用方法を守り、適切に利用することを心がけましょう。トクホの効果的な利用方法や注意事項については、こちらを参照してください。
■ おわりに
青汁や、青汁によく用いられる素材 (ケール、アシタバ、モロヘイヤ、大麦 (大麦若葉) 、クロレラ) の有効性と安全性に関するより詳しい情報は、素材情報データベースをご参照ください。青汁は根強い人気がある健康食品のひとつですが、いずれの素材も現時点ではヒトが摂取した場合の有効性に関する十分な情報が見当たりません。「青汁を飲んでいれば大丈夫」という過度な期待は、健康の維持・増進のためには望ましくありませんので、注意しましょう。
参考文献
1. 医療薬学 2008 34(7) 644-650
2. (PMID:14572599) Am J Gastroenterol. 2003 Oct;98(10):2334-5.
3. 日本農村医学会雑誌. 2008; 57(3):529.
4. 日本内科学会関東地方会 2017 637 32
5. 日本内科学会関東地方会 2017 638 52
6. (PMID:23830537) Am J Med. 2013 Sep;126(9):768-72.
7. (PMID:29203127) Am J Kidney Dis. 2018 Feb;71(2):281-286.
8. (PMID:13729670) Shokuhin Eiseigaku Zasshi 2006 47(2) 85-8
9. 医薬品インタビューフォーム ワーファリン錠、ワーファリン顆粒 2018年4月改訂 (改訂第22版) エーザイ株式会社
・ 日本食品大事典 医歯薬出版株式会社