最近、「α-リポ酸 (α-Lipoic acid) が体脂肪を減らす」との報道に伴って、α-リポ酸を配合して痩身効果をうたった健康食品が急増しています。そこで、α-リポ酸に関して現時点で見つけられる情報を調査してみました。
■ α-リポ酸とは
α-リポ酸はチオクト酸 (Thioctic acid) とも呼ばれる物質で、その酸化体のβ-リポ酸と区別するためα-リポ酸と呼ばれています。α-リポ酸の一部は体内で還元され、SH基を持つジヒドロリポ酸に変化します (図参照) 。書籍によってはα-リポ酸をビタミンと記載しているものもありますが、α-リポ酸はビタミンではなく、ビタミン様物質として扱われています。ちなみに、ビタミンの定義は、「微量で体内の代謝に重要な働きをしているにもかかわらず、人間の体ではつくることができない、あるいはつくることができても量的に不十分であるため、食べ物などから摂取しなくてはならない化合物」です。
α-リポ酸は医薬品成分として利用されていますが、2004年3月の「医薬品の範囲に関する基準の一部改正」により、食品にも利用できるようになりました。
患者 |
主訴 |
摂取期間 |
予後 |
HLA型 |
参考文献 |
34歳女性 |
動悸と手指の振戦 |
2週間程度 |
摂取中止により回復 |
DR4 (DRB1*0406) |
2008050467 |
41歳女性 |
めまい、動悸 |
間欠的に摂取 (期間不明) |
摂取中止により回復 |
不明 |
2008162769 |
48歳女性 |
冷や汗、吐き気、めまい、寒気 |
1ヶ月程度 |
摂取中止により回復 |
DR4 (DRB1*0406) |
2008035359 |
36歳女性 |
空腹時異常飢餓感、振戦、発汗異常、思考力低下、浮遊感 |
1ヶ月程度 |
摂取中止により軽減 |
不明 |
2008099436 |
36歳女性 |
脱力感、倦怠感、四肢の震え |
2~3週間程度 |
摂取中止により回復 |
不明 |
2007335596 |
44歳女性 |
咽頭痛、微熱、口渇、全身倦怠感、吐き気、嘔吐、意識朦朧、低血糖は認められず、糖尿病性ケトアシドーシス (DKA) のみ発症 |
1ヶ月程度 |
摂取中止により回復 |
DR4 (DRB1*0406) |
2008352708 |
35歳男性 |
発汗、震え |
4ヶ月 |
摂取中止により回復 |
DR4 (DRB1*0406) |
2008007916 |
64歳女性 |
冷や汗、震え、脱力感 |
3ヶ月程度 |
摂取中止により改善 |
DR4 |
2007242530 |
45歳女性 |
空腹時の冷や汗、気分不快、低血糖昏睡 |
3週間程度 |
摂取中止により回復 |
DR4 (DRB1*0403) |
2009082096 |
44歳女性 |
低血糖症状 |
1ヶ月程度 |
摂取中止により回復 |
DR4 (DRB1*0406) 、 (DRB1*0901) |
2007123925 |
23歳女性 |
空腹時の手指の震え、舌のしびれ感、全身皮膚発赤、皮疹 |
3日間 |
摂取中止により回復 |
DR4 (DRB1*0406) |
2008271711 |
41歳女性 |
低血糖症状 |
間欠的に4週間程度 |
摂取中止と薬にて治療 |
不明 |
2008125166 |
40歳女性 |
低血糖発作 |
数ヶ月前に摂取 (期間不明) |
不明 |
DR4 (DRB10403) |
2007343326 |
44歳女性 |
空腹時の脱力感、手指の震え |
1.5ヶ月程度 |
摂取中止により軽減 |
DRB1*0406-DQB1*0302 |
2007110805 |
44歳女性 |
空腹時に脱力感、手指の震え |
1.5ヶ月程度 |
摂取中止により回復 |
DR4 (DRB1*0406) |
2008188473 |
66歳男性 |
空腹時低血糖発作 |
3ヶ月程度 |
摂取中止により回復 |
DRB1*0406 (+) |
2006288585 |
30歳代女性 |
空腹時のめまい、手指のふるえ |
1ヶ月程度 |
摂取中止により回復 |
DRB1*0406 |
2006300144 |
44歳女性 |
脱力感、手指のふるえ |
1.5ヶ月程度 |
摂取中止により軽減 |
DRB1*0406 |
2007110805 |
44歳女性 |
低血糖症状 |
不明 |
不明 |
DRB1*0406 |
2006264486 |
44歳女性 |
低血糖症状 |
1ヶ月程度 |
不明 |
DRB1*0406 |
2006297299 |
38歳男性 |
低血糖発作 |
不明 |
摂取中止により回復 |
A24.A31 |
2006297522 |
■ ヒトにおける有効性情報
糖尿病に関連した研究報告があります。α-リポ酸を600~1,800 mg/日、4週間経口摂取させたII型糖尿病患者において、インスリン感受性および糖代謝能の改善が認められたという報告があります (PMID:10468203) 。また、糖尿病患者において800 mg/日、4週間のα-リポ酸の経口摂取は高血糖の持続状態の指標となるヘモグロビンA1cには影響しませんが、心性自律神経障害をわずかに改善するかもしれないという報告があります (PMID:9051389) 。その他にも糖尿病に対する効果を検討した情報がありますが、それらはα-リポ酸を静脈注射したときの研究結果です。
α-リポ酸に効果がなかったという情報もあります。それはアルコール性肝障害に対して、300 mg/日を6ヶ月間にわたって投与しても、プラセボ (偽薬) を投与した場合と比較して症状の改善が認められなかったという報告です (PMID:6129179) 。
■ その他の情報
ネコへの経口投与の最大耐量 (MTD) は13 mg/kgであり、60 mg/kg投与時では、摂食量の低下、過流涎、過剰興奮、運動失調などが認められ、死亡例も観察されたという報告があります (PMID:15059240) 。
α-リポ酸は医薬品成分としても利用されていることから、効果を期待する方が多いと思います。しかし、何らかの効果があるということは、利用方法によっては期待しない効果 (有害作用) が発現する可能性も示しています。さらに、商品を製造するときに添加されたα-リポ酸の純度、α-リポ酸以外に添加された成分の影響などがあり、「α-リポ酸という成分」に関する情報と「リポ酸を含む商品」の情報は、必ずしも一致しません。
α-リポ酸と同様、ビタミン様物質として注目されているコエンザイムQ10では、偽コエンザイムQ10商品が存在していたという事例もあるので、健康食品を選択・利用する際には、科学的根拠の乏しい情報に振り回されず、日常のバランスのとれた食生活や運動、休養 (健康づくりの三要素とも言われています) が最も重要であることを常に認識し、冷静にその必要性を判断してください。